デビルサマナー

凶魚の壺2

 事務所のドアが叩かれた。留守番をしていたレイ・レイホウは、広げていた雑誌をたたんでテーブルに置くと立ち上がった。
「はーい!今開けますね−!」
 が、その言葉が終わらないうちに、いきなりドアが開いて、スーツ姿の二人の男が事務所中央までずかずかと入ってきた。
「え?あの?アポイントメントはお取りかしら?今日、所長は遠方に出張しているので、予約は入れてないはずですが?」
 レイ・レイホウが訝って声を上げる。すると、一人の男が名刺を差し出した。
「申し訳ありませんが、急を要する用件でして」
 名刺の男は言った。
「こちらの事務所が呪物を押しつけられたとお聞きしまして」
「はぁ?」
「あんな危険な呪物を押しつけられ、さぞご心配なさったでしょう?当教団にお任せいただければ、安心できますよ!」
 張り付いたような胡散臭い笑顔で、名刺の男が言う。
「言ってる意味が分からないんだけど?」
 顧客では無い。それは確実だ。レイ・レイホウは臨戦できるよう体勢を整えた。
「あれだ!」
 もう一人の男が、そう言ってデスクの上のパソコンの横に置いてあった白い壺を指差した。
「おお!あれだ!あれだ!では、頂いていきますよ」
 そう言うと、名刺の男は壺に手を伸ばした。
「何言ってやがるの!このドロボウ!」
「ドロボウ?心外ですな!私達は市民の皆様の安心の為に働いているのですよ!」
 レイ・レイホウが男の手を掴んだ。男はその手を振り払い壺を掴んだが、手が滑り壺が床に落ちた。
「拾え!中道!」
 名刺の男が叫んだが、間に合わなかった。
 中道と呼ばれた男がスライディングしたその指の先で壺が割れ、そこから銀色の小さな魚が空間に躍り上がる。
 何か小さな声がした。
 とたん、その小さな魚体が、一瞬にして無数に増えた。魚の群が空間を泳ぐ。
「しまった!」
 名刺の男が喘いだ。
 銀色の魚群が渦を巻き、そこにいる者全てに襲いかかった。
 レイ・レイホウは身を低くして床を転がり、部屋の隅に逃れる。
「うわぁあああああ!」
 無数の魚群が男二人にまとわりつき、小さな口で男達に噛みついている。その顔は魚のそれではない。
 中道と呼ばれた男は、たまらず事務所から飛び出していった。
「馬鹿者っ!くそ!」
 名刺の男も、その後を追うように事務所から飛び出した。
 獲物をなくした銀色の魚の群は、しばらく空間に渦を作っていたが、次第にその渦が小さくなり、一匹の魚に戻った。
 そしてふわりと床に落ちた壺に戻る。
 割れていたはずの壺は、いつの間にか元に戻っていた。
 レイ・レイホウはうずくまっていた体勢を戻すと壁にもたれかかった。
 大きく息をつく。
 ふと右手の甲の痛みに気付き、見ると、手の甲に小さな噛み跡があった。
「…なんなの…これ…」
 事務所内を見渡すと、調度品もまた小さな噛み跡だらけで、革製のソファも内装もズタズタになっていた。
「なんなの!これ!」
 レイ・レイホウは怒りに満ちた声を上げた。
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